鎌倉淳ブログ

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2017 08/25

人口減少時代の土地問題 「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ【ブックレビュー】

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大学の法学部の民法の授業で、「登記は対抗要件であって成立要件でない」ということを教わったとき、腰が抜けるほど驚いた。

つまり、土地を買ったとして、登記をしなくても所有権の移転は行われる、ということだ。登記をしておかないと、他人によって登記されてしまった場合に、対抗できないだけのことである。

これはつまり、登記簿の記載は、不動産の所有者を正しく反映しているとは限らないことを意味する。



では、固定資産税などは、どういう基準で課しているのか、という疑問がわく。税金はその土地の所有者に課すのであるから、登記が所有者を示していると限らないなら、別の仕組みが必要だ。

それが固定資産課税台帳である。

要するに、固定資産課税台帳と、不動産登記の内容は、必ずしも一致しない。そして、固定資産課税台帳も、土地の所有権を国が管理している資料ではない。誰に税を課すか、の名簿にすぎない。



となると、土地の所有権は、誰が管理しているのだろうか。実は、誰も管理していない。日本政府も地方自治体も、一筆ごとの土地の所有者が誰なのか、正確には把握していないのである。

学生の頃、それで問題がないのだろうか、とうっすら疑問が湧いたが、深く考えず大丈夫なのだろう、と思い直した。土地はとても大切な資産だし、所有者は所有権を維持するためにきちんと登記もするし、固定資産税も払うのだろう、と思ったからだ。

が、現実は違うらしい。本書によると、私が学生だった1990年頃から、すでに土地の所有者不明問題というのはあったようだ。そして、それが最近大きな問題になってきたのは、人口減少時代になり、相続が不完全になりやすく、土地の所有者不明化が進んできたからだ。土地の価値が下落し、売るに売れない、税金だけがかかる、厄介な代物になっているケースが増えたことも大きい。



相続時に相続人が登記をしないと、死んだ人がいつまでも所有者として存在し続けてしまう。死亡者に対して課税されることすらあるそうだ。

死亡者課税でも、その子らによって税金が納められているうちはいい。やがて、納税通知書を送ってもあて先不明で戻ってくようになり、そうなると、もう完全に所有者不明土地となる。政府が全力を挙げれば特定することは可能だろうが、役所だって人手には限界があり、そんなことをやっていられない。ということで、その土地は所有者不明、税金も納められないで放置されることになる。



登記がされないことには理由がある。義務でないし、都会の価値の高い不動産以外は、対抗要件としての登記にほとんど意味がないからだ。そして、登記をするには手間もかかるし、お金もかかる。面倒でお金もかかる上に意味のない手続きを、すすんでしたいと思う人はいない。

筆者は一度だけ、法務局で登記の手続きをしたことがある。自分の住所変更があったので、登記簿の前住所を現住所に変えようとしたのだ。複雑な変更でもないので、自分で書類を揃えて法務局にいったら、係員に露骨にイヤがられた。司法書士を通さない「一般人」が手続きをするのを、法務局は好まないようだ。

「この内容で大丈夫ですよね」と、提出書類を係員に見てもらおうとすると、「いやいや、そういうのは見ない(記述内容の確認はしない)から。書き方わからなかったら、相談コーナーに行ってね」という。記載の確認をして、間違ってしまったら、累が確認をした係員に及んでしまう。役人は自分の責任になることをきわめて嫌う。そのため、提出書類の内容確認を避けるのであろう。

こちらとしては「相談」するほどの内容でもないし、相談コーナーは予約制である。そんなのを待っていられないので、押しつけるようにして手続き書類を係員に渡して、その場を後にした。それで問題は起きなかったが、所有者本人が訪れて本人の住所変更をするだけであれだけイヤな顔をされたら、誰だって法務局なんて行きたくないと思うだろう。

かといって、司法書士に頼めば、それなりの手数料を取られる。住所変更だって1万円くらいはかかるし、もっと複雑な登記だと数万円から数十万円かかる。そんなお金がかかるなら、切実な理由がなければ、わざわざ登記をする人なんているわけない。つまり、制度が悪い。


では登記を義務にしたらどうか。それでも問題は解決しないと思う。そもそも、仮に義務化するにしても、個人の財産権に関わることだから、不作為に対して罰則を設けるわけにもいかないだろう。罰則がなければ、状況は変わらない。そのくらい登記は面倒で、嫌われていることなのではないか。

納税もされていない、所有者不明の土地は、国か自治体が召し上げてしまえばいいのではないか、という考え方もある。おそらく、それが一番合理的で現実的な解決方法だろう。しかし、財産権に露骨に踏み込む施策であるから、絶対に強い反対意見が出る。そのため、政治家も役人も及び腰である。

そもそも、国は民間所有の土地を召し上げることに消極的だ。できれば、不要な土地は民間に持ってもらって、民間の手で手入れをしてもらい、税金を納めて欲しいと考える。公有地にしてしまったら、管理義務を国や自治体がおわされるうえに、固定資産税も取れなくなる。

要するに、かなりいろんな仕組みを抜本的に変えなければ、この問題は解決しない。問題点を挙げ始めたら、本当にきりがない。

本書は、そうしたとても根深い、日本の土地管理や登記制度の問題点などを整理した良著である。読み進めながら、ページを繰る手を止めて、考え込んでしまう内容であった。







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