三陸の鉄道は復旧できるか(東日本大震災・鉄道の津波被災を追う14)

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 JR東日本の清野社長は、被災した鉄道路線をすべて復旧させると明言している。しかし、その道筋ははっきりしない。

 現地を見てみた印象では、津波被害を受けなかった区間も多く、それらの区間の復旧作業はそれほど困難ではないようにも見える。津波被災区間にしても、土地は残されているのだから線路を復旧させることは十分可能だ。ゼロから路盤を造り直すのに近い作業になりそうだが、JR東日本ならば、土地さえあればそれほど時間をかけずにできるだろう。

 ただ、現地を訪れてわかったことだが、深刻なのは地盤沈下である。これは、ある意味で津波以上に深刻だ。なぜなら、津波は日常的には来ないが、地盤沈下は日常であり永遠である。海水面すれすれの高さに列車を走らせるわけにはいかない。

 とくに海岸線に沿って走る仙石線は、海水面より低い位置になってしまった部分が多いように見える。こうした部分は、高架化するか築堤を作るかしないと危険である。

 また、津波被災地は無人の荒野と化している。女川駅や、陸前高田駅の周囲には、いま住人は存在しない。そんなところに鉄道だけ復旧して駅を開いて、何の意味があるのか、という指摘もある。冷徹だが事実である。

 鉄道があれば、また人が住んで街ができる、という意見もある。が、これは昭和の発想だろう。現在の日本では、街ができるのに重要な要素は整備された道路であって、ディーゼルカーが走るローカル線ではない。

 鉄道好きなら、この際だから新幹線や北越急行なみの高速鉄道を引いたらいい、などという発想も出てくる。夢としてはすばらしいが、津波に被災していない区間まで線路を引き直すのは合理的ではない。そもそも人口が激減している地域に、高速鉄道を建設する必要性も低い。

 海岸沿いの集落が、高台に移転する方針もある。もしそうなれば、鉄道路線もそうした集落を結ぶ形に引き直すのだという。今から都市計画を練り、土地造成をしてとなると、十年がかりの計画になるだろう。しかし、十年がかりの移転計画など現実的だろうか? 人は十年も別のところに住んでしまえば、そこが新たな故郷になる。高台に新集落を作ったとして、またそこに移り住もうという人がどれだけいるのだろうか、とも思わずにいられない。

 こうした議論になると、深みにはまり、先に進みにくくなる。こういうときはシンプルに、これまでの路線跡にそのまま復旧させる方がいいのではないか。駅設備は最低限にして、最低限の本数の列車を最低限のスピードで通せるだけの仕様にする。地盤沈下対策だけは必要な措置を施す。それだけで、当面の用は足りるであろう。高台移転が本当に実現するなら、その都市計画に基づいて新線を作り直せばいい。

 いつ実現するかわからない移転計画よりも、残されている設備をできる限り利用したほうが、結果的に被災地の早い復興につながるのではないか、と思わずにはいられない。




 これで、「東日本大震災・鉄道の津波被災を追う」は終了です。

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