ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか【ブックレビュー】

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藤代 裕之著

ヤフー、LINE、スマートニュース、日本経済新聞、ニューズピックスという5つのネットメディアについて取材した本。ヤフー、スマートニュース、日経はよく見るので、興味深く読んだ。こうしたニューメディアの内情を書いた本はまだ少なく、貴重だ。

すべて自社記事で構成する日経は別格として、それ以外の媒体は自社で取材力を持たないか、持っていても小さい。他メディアの記事を掲載するプラットフォームとしての役割が主たるものである。



ささやかなネットメディアを運営する身としては、こうしたプラットフォームとの距離感は難しい。記事を取り上げてもらえると、サイトの認知に繋がるし、多少のアクセス流入もあるのでありがたい面はある。

しかし、無断で他メディアの記事を取り込んで、自社のプラットフォームで表示し、対価も支払わないという姿勢には疑問を持たざるを得ない。

一言「使わせてください」といってくれば、無料で提供もあり得るけれど、問答無用で勝手に取り込むからなあ、スマートニュース。



現在、スマートニュースは対価を支払うシステムを作り、記事提供元との共存を図る方向にある。当たり前の話だし、いい面もあると思う。メディアの新規参入を容易にするからだ。スマートニュースに取り込んでもらい、読んでもらうことで、メディアのスタートアップには役立つだろうと思う。

お金の問題でなく、とにかく誰かに記事を読んで欲しい、と切望している書き手もいるだろうし、そういう人の手助けにもなる。新興メディアは、こうしたプラットフォームを上手に利用し、利用されながら認知を広めていくという手法がとれる。



新興メディアの弱点は取材力である。二次情報の提供や論評は得意だが、一次情報の取得には弱い。それなりの質の一次情報を幅広く自力で獲得し提供できるメディアは、昔から変わっておらず、5大紙と2大通信社をはじめとする記者クラブ系のレガシーメディアと、大手出版社系の雑誌媒体だけだ。

なぜ、新しいメディアは取材力が弱いのか。それなりの質の記事を継続的に発信し続けるには、それなりの質の取材記者がそれなりの数必要だからだ。

しかし、取材力のある記者を確保するのは簡単ではないし、多数を雇用し続けるのはもっと難しく、新興メディアには荷が重い。行うとすれば、回収できるかもわからない巨額の投資が必要だ。


実際のところ、ニューメディアが多く参入しているのは経済分野である。企業や団体などニュースソースが幅広いので独自取材をしやすく、読者も多いので広告が入りやすい。つまるところ、経済ニュースは参入しやすいので、ニューメディアたくさんできている。

一方、ニュースソースが限られていて取材が難しい事件ジャンルは、新規参入が難しい。そのため、事件ネタを扱うメディアは、レガシーメディア以外にまともな媒体は育っていないように見える。

事件記事を書くには現場を時間を掛けて歩かないといけないが、現場に記者を放り込んでおけるだけの力のあるネット媒体は、いまのところほぼ皆無である。また、事件取材には警察取材も不可欠だが、警察は媒体の選別が激しいので、新興メディアをあまり相手にしてくれない。

事件記事は広告も取りにくいし、手間がかかる割に収入が少ないので、お金にもならない。そのため、事件取材に力を注ぐ新興メディアが、これから出てくるとは思えない。


ネットメディアの覇権競争は激しい。新しい媒体の攻勢に、既存メディアは防戦一方にも見える。しかし、一次情報の取得から配信まで一手に行える日経や朝日のような総合メディアは生き残れると思う。

取材までは行うけれど、配信はプラットフォームに任せるネット主体のミドルメディアは、これから競合がどんどん激しくなる。ただ、全体としては伸びていくだろう。

小さい所帯でプラットフォームによる配信をせずとも採算が取れるミニメディアにも、大きなチャンスがあると思う。でも栄枯盛衰は激しそうだから、世界のあちこちでできては消えていくだろう。

一番厳しいのはプラットフォームに思える。プラットフォームは、それこそ時代の流れで変遷していくので、スマートニュースやニュースピックスがこれからも長く生き残れるとは思えない。

要は、独自コンテンツを作り出せる者が生き延びる。その意味では、やっぱり日経は強い。


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