
同じような旅を続けていると飽きてくる。たとえば、青春18きっぷの旅は楽しいけれど、いつもひたすら普通列車でJR線を乗り続けていたら、いつかうんざりしてくるだろう。
山登りだって、同じような山を登っていたら飽きてくる。低山ばかり登っていたら高山に登りたくなるし、冬山や岩登りにも興味が沸くだろう。
旅は楽しいけれど、同じような旅はいつまでも続かない。どこかで方向性を少し変えて、自分の旅に新たな視点を持ち込まなければ、旅自体に出るのが億劫になってくるかもしれない。
その点、宮田珠己氏の旅のテーマには、いつも唸らされる。奇妙な仏像であったり、ジェットコースターであったり、ウミウシであったり、石ころであったり、少し気の抜けた四国八十八ヵ所であったり。自分では思いつかないような旅のテーマを見つけてくる。
その全部に私が興味を持つわけではないけれど、「なるほど、それは面白そうだ」と同意する部分は少なくない。本書「私なりに絶景 ニッポンわがまま観光記」でいえば、たとえば忍者屋敷に関する項などは全面的に賛同する。私も全国の忍者屋敷をたどってみたくなった。
最近の宮珠氏には、ときおり文章を書くのが苦しそうに感じられる部分もあった。しかし、本書からは、憑きものが落ちたようなすがすがしさが感じられた。デビュー作「旅の理不尽」のような圧倒的なおもしろさとは違う、年齢を重ねてユーモアが熟してきた。なかなかこういう味のある文章は書けない。
本書で宮珠氏の筆がなめらかになったのは、女性編集者テレメンテイコ女史の力も大きいだろう。個性的な同行者がいると、旅行記は俄然面白くなる。一人旅だと、面白く書くのは難しい。テレメンテイコ女史との、ちょっと毒のある掛け合いが、本書の大きな見どころになっている。
書き下ろしとして加えられた鹿児島編に、宮珠氏には珍しいメッセージ性の強い文章があった。
「人生はそんな甘いもんじゃないよと、何でもかんでも否定してはいけない。もちろん人生は甘いもんじゃないけれども、甘いものも幾分かは混じっているのだ。その幾分かの甘い成分を楽しく味わおうではないか」
著者自身に向けられた言葉に感じられたが、旅を愛する全ての人にも向けられた一文だろう。きっと、私にも。