学生時代、神戸・三宮でアルバイトをしていたとき、先輩に連れて行ってもらったのが、「かつ丼吉兵衛」である。しっかりしたダシとたっぷりの卵、ふっくらアツアツのカツ。この世にこんな旨いかつ丼があるのか、と驚いた。
バイトは週2くらいで、吉兵衛には、月に1~2回は訪れていた。いつも行列ができていたので、吉兵衛に行くとそれだけで昼休みが終わってしまうのだけれど、その価値のあるお店だった。

神戸を離れてからは、行く機会がなくなった。最後に訪れたのは、たぶん1991年だと思う。今回、神戸を訪れたので、昼食に寄ってみた。
三宮センタープラザ西館地下1階。私が通っていた頃と、少し場所が変わっている気がする。当時はカウンター数席の小さな店だったが、いまは客席が3倍くらいになっていて、厨房も広くなっていた。
当時、切り盛りしていた職人のような兄ちゃんはいなくなり、3人の店員で回している。
自動券売機でチケットを買う。メニューは昔より増えているが、昔ながらの定番の「かつ丼、卵ダブル、赤だし付き」にする。いまは肩ロースと背ロースが選べるが、「創業の味」と書いてあった肩ロースを選ぶ。
行列で10分ほど待って、席に着き、ほどなく料理が運ばれてきた。

食べてみた感想を正直に書くと、自分の記憶とは違う。昔の吉兵衛のアツアツ、ホクホクとは少し違うし、カツの身はもっと厚かった気がする。赤だしは、飲むのに苦労するくらい熱かったが、いまは適度な温かさで給仕された。
とはいえ、27年も前の味の記憶と相違があるのは仕方ない。思い出補正が効いていたのだろう。記憶は年を経るごとに美化されていくものだ。
いまの吉兵衛のかつ丼も、とても美味しい。ダシの効いた卵かつは絶品だ。
が、どことなく、かつ丼チェーン店ぽい味になっていた。とんかつが、ザクザク、カリカリしているんですよね。
自宅に帰って店舗のウェブサイトを見ると、「かつ丼吉兵衛」は、かつては現位置の30メートルほど西にあり、1998年に現在の位置に移転したそうだ。2010年からチェーン店となり、大阪などにも出店している。
2015年にセントラルキッチンを導入した、とある。味がチェーン店ぽくなっているのは、そういうことなのかもしれない。
それでも、美味しい。自分にとっては懐かしい、四半世紀ぶり「かつ丼吉兵衛」でした。