「東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編」下川裕治【ブックレビュー】

東南アジア全鉄道制覇

下川裕治さんは、とりたてて鉄道ファンではないようですが、最近、海外の鉄道旅の本をいくつか出されています。気になっていたので、そのうちの一冊を読んでみました。『東南アジア全鉄道制覇の旅』(全2タイトル)の前編にあたる『タイ・ミャンマー迷走編』です。

鉄道完乗本といえば、宮脇俊三の『時刻表2万キロ』が輝きます。それと比較すると、宮脇氏が鉄道ファンを自認しての完乗を目指したのに対し、鉄道にそれほど興味のない下川氏による本書は、列車に乗ることに対する熱量に乏しいです。その意味では盛り上がりに欠ける部分もあるのですが、でも本書が面白いのは、発展途上国で鉄道に「もれなく乗る」ことの難しさがあるからでしょう。

とくにミャンマーの鉄道事情はひどいものです。車両は古く、保線はずさんで、列車本数は少なく、乗るだけで壮絶に大変です。しかも、乗る以前の話として、時刻表が配布されていないので、どこに路線があり、列車が走っているか否かすら、現地に行ってみないとわからない、という惨状です。

こういう状況で、情報を入手し、ひとつひとつ乗り重ねていく、というのは、東南アジアの旅行歴豊富な下川氏以外では、なかなかできることではないでしょう。律儀な下川氏は、乗り残しがないように四苦八苦して、バスやバイクを使いながらミャンマーの劣悪な鉄道を踏破していきます。それでも、最終的には「完乗?」という疑問符の残る終わり方となりました。

日本の鉄道に乗る場合、時刻表という「相談相手」がいます。時刻表をいかに読みこなすかが、『時刻表2万キロ』のおもしろさを構成しているのですが、『東南アジア全鉄道制覇の旅』にはそうした視点はありません。

時刻表が手に入らないので仕方ないのですが、その意味でも、「乗りつぶし的」なおもしろさはありません。そもそも定刻運行してくれないと、時刻表の意味は半減するのですが、その点でもミャンマーはあてになりません。そういうことで、結局、苦行の旅行記になってしまっています。

ところどころに出てくる、日本製の鉄道車両についても、鉄道好きならもっと突っ込んで書いたでしょう。そういう部分への興味のなさが、下川さんらしいのですが、物足りなさにも繋がっているといえます。

と、やや否定的に書いてしまいましたが、やはり東南アジアの鉄道乗りつぶしという、テーマのおもしろさは強く、飽きずに最後まで面白く読ませていただきました。

淡々とした文章で紡ぐぼやき方も、下川氏一流のうまさと味わいがありました。


東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編

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