『北朝鮮と観光』 礒﨑敦仁【ブックレビュー】

北朝鮮と観光

私が北朝鮮に観光旅行で行ったのは、1995年4月のこと。「平和のためのピョンヤン国際スポーツ及び文化祭典」という国家的イベントが開かれ、北朝鮮が外国人観光客の受け入れを拡大したときです。私が参加したツアーは5日間17万円程度で、当時としては破格に安かったと記憶しています。

本書『北朝鮮と観光』によれば、北朝鮮が日本人の観光客を受け入れたのは1987年から。その後、日本人の北朝鮮観光のブームは3回ありました。受け入れ直後と、雪解けムードの1992年と、この1995年です。

つまり私は、戦後3回しかないチャンスをものにして、みごと平壌の土を踏んだ、ということになります。10万円台の格安ツアーが組まれたのも、このときが初めてだったそうです。最盛期の1992年には4,287人が訪朝。1995年は2,801人が訪朝したそうです。

しかし、祭典直後の5月に、北朝鮮は突如、日本人観光客の受け入れをやめてしまいます。「あまりに多くの日本人を受け入れすぎたと反省したのでは?」という憶測が流れました。本書でもその点に触れていて「スポーツ祭典時には外国人観光客を担当する案内員が大幅に不足し、一部の観光客が禁を破って勝手に外出するケースが多発していた」と書いています。ああ、それ私のことです。当時は、案内員の監視がゆるく、結構自由に出歩けたんです。すいません。

日本人受け入れ中止は1年ほどで解除されましたが、その後、二度と1995年のような「観光緩和」は行われませんでした。

現在は、北朝鮮に旅行したとしても、案内員からきっちり行動を把握され、こうした自由外出はできない模様です。ただ、外国人観光客が足を踏み入れることができるエリア自体は拡大しているそうです。自由度は減った一方で、頼めば行けるところが増えたわけで、一進一退というところでしょうか。

それにしても、観光客で北朝鮮を訪れる日本人観光客は激減しています。2018年の日本人旅行者は、わずか300人ほど。日本における北朝鮮ツアーの最大手である中外旅行社は、北朝鮮へのパッケージツアーの扱いをやめてしまっています。

日朝関係の悪化や、渡航自粛勧告の影響かな、と思っていましたが、本書によれば、2005年の旅行業法改正によるところが大きいとのこと。改正により、主催旅行で旅程変更が起きたときに、旅行会社は一定額の補償をしなければならないのですが、北朝鮮では当局の都合による日程変更など日常茶飯事で、リスクが大きすぎて扱えなくなったそうです。

たとえば、鉄道で移動するはずだったのに飛行機に変更、などという旅の根幹にかかわるルート変更が、北朝鮮では普通に起こります。そのため、旅行会社の主催旅行では、補償リスクが大きすぎるのです。結果として、旅行会社は主催旅行のツアーをやめて、個人の手配旅行に軸足を移したのだそうです。昨今の日朝情勢では、ツアーを募集しても、行く人が限られて集まらない、という事情もありそうですが。

ちなみに、観光解禁以前の北朝鮮旅行では、わざわざ香港と北京を経由して平壌にいかなければならなかったそうです。私が訪れた1990年代は名古屋から直行便(チャーター便)が出ていたので、あの頃が一番「近かった」のですね。価格的にもツアーで行けた当時がいまより安かったわけで、1995年に北朝鮮を訪れた人は、ラッキーだったということでしょうか。



などなど、本書『北朝鮮と観光』は、北朝鮮の観光受け入れの歴史と現状についてまとめた本です。旅好きには興味深く読めるでしょう。北朝鮮に対する視点も冷静で、研究者ならではの安定感があります。

現状では、北朝鮮は気楽に旅ができる国ではありませんが、それは日本人にとっての話。北朝鮮と国交を樹立している国は160か国に及び、距離的に遠いヨーロッパ人のほうが、むしろ北朝鮮に気兼ねなく旅行しやすいようです。

日朝関係が改善すれば、日本人も、もう少し気軽に北朝鮮を旅できる日が来るかもしれません。いつになるのかはわかりませんが、そういう日が来るといいですね。


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