黒崎駅前-熊西-筑豊直方 16.0km

筑豊電鉄は、不思議な鉄道である。もともとは、西鉄北九州線から分岐していた「分家」的な鉄道だったのだが、「本家」の北九州線が廃止されてしまった後に、分家だけが残されているのだ。
もともとの基点は熊西で、そこから北九州線の黒崎駅前まで乗り入れていた。ところが、北九州線が廃止されてしまったため、熊西・黒崎駅前間だけを、筑豊電鉄が借りて使用している。
鹿児島本線で黒崎で降りる。黒崎は北九州市の副都心で、かつてはそごうもあった。高架の駅舎から外に出ると、広いペデストリアンデッキが広がっている。西日本にはこういう駅が多い気がする。筑豊電鉄は、そのペデストリアンデッキの隅を降りて地上に出て、少し歩いたところにあった。駅前の商業ビルの1階である。
この商業ビルは、営業していない。調べてみると、2001年に開業して2003年に破綻し、それっきりだそうである。駅前再開発ビルとして建設されたらしいが、2001年は、地方の駅前で再開発をする時代ではなくなっていたと思う。
そして、このビルは、致命的に動線が悪い。1階が筑豊電鉄とバスのターミナルになっているのだが、それがビルの商業施設に直結してないのである。僕は、駅からペデストリアンデッキを降りて、歩道を歩いて筑豊電鉄のターミナルまでやってきた。これでは、仮にビルが営業していても、ビルに立ち寄る機会はない。もう少しターミナルの位置を工夫して、ビル内のアーケードでも歩かせる作りにすべきだったのだろう。

それはさておき、まだ新しい筑豊電鉄のターミナルに、古くさい連接の路面電車が入ってくる。西鉄北九州線が路面電車だったため、筑豊電鉄もそれと同じ様式になっている。車両は1988年に建造されたもので、当時「軽快電車」などと呼ばれたタイプだ。近代的な路面電車車両ではあるが、すでに22年が経過して、見た目には「ちょっと古いな」と思うようになっている。ついこないだまで「新型」と呼ばれていたタイプの気がするが。
電車は15分おき。席は半分くらいが埋まるくらいであった。二駅で熊西。ここの先でぐぐっと左に折れて直方方面に向かう。まっすぐ方向には、西鉄北九州線の架線柱や線路跡が残されていた。
電車は住宅街を右に左に折れながら進んでいく。基本的に路面電車の専用軌道だから、速度は遅い。これじゃ、クルマでバイパス道路でも走った方が早いだろうな、と思う。事実、乗客を自家用車に取られているようである。
昭和の香りのする路線である。終点に近づくにつれ乗客は減り、一つ手前の感田を出ると、僕の他には一人だけになった。

遠賀川の長い鉄橋を渡ると、すぐに終点の筑豊直方である。駅は高架がちょん切れる形で終わっている。このまま、福岡までの延伸計画があり、それに対応するためである。が、それは夢に終わっている。現在の直方の中心駅はJRで、こののんびりした路面電車で黒崎へ出る人は少ないのだろう、周囲は閑散としている。

筑豊直方からJR直方までの商店街は、ごらんのように死んでいた。