欅平-黒部ダム 18.3㎞

欅平駅から黒部ダムまでの区間を「黒部ルート」という。この区間は、おもに4つの輸送機関で構成される
・黒部峡谷鉄道の延伸部分(下部軌道)
・上部専用鉄道(上部軌道)
・インクライン(ケーブルカーのようなもの)
・バス(専用トンネルを走るバス)
下部軌道と上部軌道の間は大型エレベーター(竪坑エレベーター)で結ばれていて、車両も直通できる。ほぼすべての区間が地下を走る。つまり、鉄道、ケーブルカー、バスが連携して山岳地帯の地下に交通網を形成しているのだ。
この区間は、関西電力の専用設備である。同社が黒部で運営している発電施設のための資機材運搬に使用されており、一般乗客には原則非公開だ。
だが、この区間が一般開放されれば、宇奈月温泉-欅平-黒部ダムという新しい観光ルートができるわけで、地元では一般開放を望む声が昔から多かった。そうした声を受けて、富山県が関西電力に一般開放を要望して実現したのが「黒部ルート見学会」である。はじまりは1996年のことである。
この「見学会」実現までは、ちょっとした歴史的経緯がある。
そもそも、黒部ルート(欅平~黒部ダム)間が完成したのは1959年(黒部トンネル開通)だが、その後、30年以上、関西電力は非公開を貫いていた。その理由は、設備が複雑なうえ、ほとんどの区間が地中のため、安全性の確保が難しいなどの理由が挙げられる。簡単にいえば「一般公開は相当に面倒くさいし、事故が起きたら大変」ということである。
ところが、黒部川のダムでの排砂問題がクローズアップされてから、風向きが変わった。簡単にいうと、ダムの底に貯まった砂をダムの水と一緒に排出したら、この砂がヘドロ化しており、下流域や富山湾で漁業被害を起こしてしまったのである。
最初の排砂は1991年で、このときに環境問題が浮上したが、決定的だったのが、1995年の黒部川大洪水であった。集中豪雨で黒部川のダムに大量の土砂が溜まり、関西電力は「緊急排砂」として、大量の土砂をダムから排出した。地元の反発は強く、富山県と関西電力が協議を行ったのだが、「黒部ルート開放」はこの直後に突然に決まった。
富山県も関西電力も、排砂問題と黒部ルート開放の直接の関連は否定しているそうだが、間接的に関連しているのは間違いない。つまり、関西電力の環境問題の「地元見返り」の一つが、黒部ルート開放、ということのようである。
そういう経緯で開放されたためか、「黒部ルート見学会」は無料である。参加希望者は、ハガキで関西電力に申し込む。設定日は平日に限定されていて、2010年の場合は34日が設定されている。欅平発と黒部ダム発があり、一日あたりの見学者は各30名(計60名)が限度なので、見学できるのは最大で年間2040人にすぎない。応募者多数の場合は抽選になるが、2009年の平均抽選倍率は欅平発が5.5倍、黒部ダム発が3.4倍となっている。
設定は平日だけで、土日や祝日には設定されていない。その理由については、
富山県議会のやりとりによると、「土日では要員体制が十分でないため、悪天候時における見学会の中止の連絡体制、あるいは事故等の緊急時における見学者の安全確保が十分とれないということ。それから土日、祝日は、原則的に発電施設が運転していないため十分な施設案内ができず、見学会の目的が十分達成できないといった理由から、実施は困難」ということのようである。
要するに、関西電力としては「発電施設の見学会」という建前を取りたいので、発電施設が運転してない週末は動かしたくない、無理に休日出勤もさせたくない、ということである。発電施設が週末に休むというのは驚きだが、水力発電所は、出力調整に使われることが多いので、電気が余る週末には稼働しないのかもしれない。
ということで、黒部ルート見学は結構難しい。抽選をパスするのは何度かハガキを送ればなんとかなるだろうが、日程的に東京や大阪からの日帰りは不可能なので、ほとんどの場合、平日に少なくとも2日は休まなければならない。当選は年1回に限られており、キャンセルはできないので、急用ができたら終わりである。
ということで、欅平の集合場所に集まったのは、8割方がリタイヤ組であった。チームは3組に分けられるが、僕のチームは地元富山から来た人ばかりである。まあ、現在のシステムでは、時間があって、近所に住んでいる人しか来にくいよなあ。でもそれじゃ、地域振興の意味はなしてない気がする。
僕はたまたま一度で当選したが、運が良かったのではなく、東京からの客だったからかも知れない、などと考えてしまう。金をほとんど落とさない地元の人よりも、宿泊費を落としてくれる客の方が、地域振興にもなるから。が、これはあくまでも想像で、実際はよくわからない。
応募要項は
こちらまで。
また、黒部ルートに関しては、北日本新聞の「
21世紀のおくりもの」という企画記事が詳しい。