森林鉄道記念館-丸山渡 1.1km

かつて、日本各地の山林には森林鉄道が張り巡らされていた。そのほとんどは1970年代までに廃止され、現在まで残されているのは、安房森林軌道(屋久島)と京都大学演習林軌道(京都府)の二つだけである。ただ、どちらも関係者が利用しているだけで、一般人は乗車できない。一般人が乗れる森林鉄道は、全国で数カ所の保存鉄道だけである。
赤沢森林鉄道は、そのひとつである。これは1975年に廃止されたかつての木曽森林鉄道を、復活して保存しているものである。木曽森林鉄道は、最盛期には53路線、430キロメートルにも達した、日本最大の森林鉄道網であった。
ところで、日本はこれだけ鉄道ファンの多い国なのに、保存鉄道はほとんどない。同じように鉄道ファンの多いイギリスでは、多数の保存鉄道があるのを考えると、彼我の差は大きい。その理由を考えてもわからないが、赤沢森林鉄道が保存されているのは、日本においては特筆すべきことである。
黒部ルートを縦走した僕は、扇沢から信濃大町へ抜け、松本に一泊した。そこでクルマを借り、木曽山中の赤沢自然休養林にやってきた。「自然休養林」とは森林公園のようなものである。木曽谷の本当に山の中にある公園で、保存鉄道はこの公園内を縦走している。
松本から赤沢までは、普通に走って2時間かかった。想像以上に交通不便なところなのだが、驚いたことに、観光バスで乗り付けた団体客と遭遇した。団体客は、森林鉄道に乗るためだけに、ここまでやってきたのだという。森林鉄道に乗るためにここまで来る人がいるのは不思議ではないが、団体旅行が成立するほどとは思わなかった。それも1台2台ではないのである。保存鉄道の集客力はすごい。
アメリカの西部を思わせるような始発駅は雰囲気があるが、乗ってみたところ路線はたいしたことはなかった。保存鉄道とはいえ、今運行している車両は保存鉄道用に新造されたものばかり。それがゆっくりと森林公園内を走っていく。軌道も新設されたもので、路盤はしっかりしている。ということで、森林鉄道の雰囲気を偲ぶというよりは、遊園地の大型アトラクションに乗っているような気がした。おもしろいことはおもしろいのだが、イギリスの保存鉄道などとは、おもしろさの質が違う、ということだろうか。

古い車両は、森林鉄道記念館に展示しているので、それを見るのがよい。こんな田舎にまで御料車があることには驚かされる。

他にも蒸気機関車や客車などが、いくつか展示されている。