高城剛著・光文社新書
「サバイバル時代」って何ことだろう、と思いながら、読んでみる。こう書いてあった。
「現在起こっている多くの問題は、経済問題に限らず一国ではとても解決できません。したがって、それは、国家レベルにとどまらず、個人のレベルの危機管理でもグローバルな眼差しを持たねばならない時代になったということを意味します。国家や組織が個人を守る時代は終わり、個人が自力で生き残る術を見つけなければならない現代は、いわば『サバイバル時代』と呼べるでしょう」
何度読んでも意味がよくわからなかった。国家や組織が個人を、これまでどのように守ってくれたのか、そしていつから守ってくれなくなったのか、何も書いてない。そして、たかが海外旅行に大げさだなあ、と思ってしまった。
内容については、著者の高城氏の旅のスタイルが書かれている。海外では携帯を現地で購入しようとか、iPhoneのSIMフリーを香港で購入すると便利だとか、ソーラーギアを持っていこうとか、超小型のモバイルプリンターは使えるとか、現地で銀行口座を開きましょう、とか。
「着替えが多数必要なときや、季節の異なる複数の都市を訪れる場合--たとえば北半球と南半球を行き来しなければならなくて、ダウンジャケットなど冬用の準備も必要なときは、圧縮袋と圧縮しやすい衣類を選びます」
なんて記述を読むと、世界が違いすぎるなあ、と思ってしまう。北半球と南半球を行き来しなければならないことなんて、これまでの人生で一度もありません。
いうまでもないが、旅のスタイルは個人の自由。だから、こうした記述をどうこう言うつもりはないし、むしろ、高城氏のような人がどういう旅をしているのかがわかって興味深かった。
最終章には、彼の荷物の中身が紹介されていておもしろい。PC、一眼レフから虫さされ、パフューム、着替え12日分…。こんなに荷物を持ったら重くて仕方ないだろう、と僕は思うが、本人はこれらを紙袋に詰めて「軽装」の部類に入るかのように記述している。
人によって、荷物の多い少ないの感覚は違うのだな、と思う。僕は着替えは2日分しか持っていかないし、それで十分間に合うと思っている。
この本の想定している海外旅行とは、ビジネスを兼ねた中長期旅行のようだ。そういう人には、役立つ情報が結構ありそうだ。
話は前後するが、第1章で、日本のガイドブックの批判をしている。著者自身、これまで『地球の歩き方』を150冊は購入してきたそうで、それを踏まえての批判だから一理ある。いわく、「本の値段は1600円。必要のない情報ばかりで、この値段はあまりに高いでしょう」。そして、『ロンリープラネット』などの欧米のガイドブックがいかに優れているかを記述している。
が、欧米の英文ガイドブックとの比較は酷な気がする。全世界で販売できる英文ガイドと、日本国内の市場しか持たない日本語ガイドでは、制作に投入できる金額がまったく異なる。そしてオールカラーで1000円台の日本語ガイドが、僕は決して高いとは思わない。ただ、日本のガイドブックの制作者の取材のいいかげんさについては、同感といわざるを得ない。
高城氏は、「日本の海外旅行者が少ない原因は様々考えられますが、僕は日本で出版されている“使えない”旅行ガイドブックに決定的な問題があると考えています」と指摘する。これは極論だろう。
僕は、ガイドブックは旅行者の鏡であると考える。日本の海外旅行者がこの程度の情報しか求めないから、日本ガイドブックはこの程度なのではないだろうか。現実問題として『ロンリープラネット』の日本語版も刊行されているが、あまり売れているようにはみえない。
そしていうまでもないが、英語さえできれば、高城氏の絶賛する海外のガイドブックはいくらでも読めるし、日本でも手にはいるのである。
サバイバル時代の海外旅行術 (光文社新書)