三山喬著 望星ライブラリー(東海教育研究所)
「南米同胞百年目の消息」というサブタイトルがついている。
元朝日新聞記者が、南米に単身渡り現地記者として日本人移民の消息を追った本。ペルーの日系邦字紙の現場、日本に出稼ぎに来ている日系人たちの背景、ボリビアの日本人移民の町の歴史、第二次大戦終戦時の日系人の分裂など、私たちが普段考えることもないような世界をルポルタージュしている。
私自身も知らないことばかりで、未知の世界を自分が冒険しているかのような興奮を覚えた。
日本人の中南米移民というと戦前を想像するが、じつは、戦後にも海を渡っている。海外領土を失った日本政府が、国民を食わせることができず、ろくに現地調査もせずに片っ端から送りつけていたそうだ。現地で土地が得られればいい方で、ほとんど半奴隷になって「土人」になってしまった人もいるようである。いっぽう、必死で土地を耕して成功した「日系人」は、今度はあたかも昔からの「金持ち」であったかのように、現地人から妬まれるようになるという。ボリビア人のあまりにも働かない様子も描かれていて、開発途上国の悪い素顔も覗くことができる。
ルポルタージュの内容は質が高い。惜しむらくは、文章が冗長すぎる点。そのために本全体が長くなっていて、読んでいて飽きてしまう部分がある。もっと文章を削りこんで、内容を絞った方がよかっただろう。とくに、著者の回想や思い出話、あまり意味のない考察は、なくてよかった。本人の自分史ならこれでよいのだろうが、商業書籍として第三者に読ませる内容ではない部分も多い。
しかし、異色の力作であることは間違いなく、南米旅行者にはぜひおすすめしたい。
日本から一番遠いニッポン―南米同胞百年目の消息 (望星ライブラリー vol. 10)