阿川弘之 (光文社文庫)
阿川弘之が書いた「南蛮阿房列車」シリーズのうち、12編を選んだもの。書かれた年代は70年代から80年代である。
まだ海外旅行がいまほどポピュラーじゃない時代に、マダガスカルやケニア、メキシコなどの鉄道まで網羅して世界を旅した阿川氏は、ある意味時代の先駆者だろうと思う。
一緒に行く相方がいない場合は、一人旅である。まだ航空券が高かった時代に、飛行機を何度も乗り継いでマダガスカルまで鉄道に乗りに行くなんて、そうはできない。
この本を読みながら、僕は中学時代に読んだ「東海道中膝栗毛」を思い出した。要するに原稿が「弥次喜多」なのである。同行者や現地であった人を肴に、そのやりとりがおもしろい。ぎゃくに、一人旅で淡々としている部分はつまらない。阿川ほどの文才を以てしても、一人旅の鉄道旅行紀行文は難しいのか、と思った。
外国人をときに小馬鹿にするような書き方は、戦前世代だなあ、と思う。世界観も冷戦時代そのままだし、ときおり垣間見える外人への差別意識も、世代間ギャップを感じさせる。そういう部分も、いまとなっては興味深い。
たった30年ほどで、世界観はこうも変わるのか、と考えさせられた。それはつまり、僕の世界観が形成された1990年前後も、いまにあてはめても時代遅れである、ということにほかならない。
南蛮阿房列車 (光文社文庫)