NHKプレミアム8 「古代マヤ文明 天才少年が解き明かした謎の文字」

マヤ文字は難解だ。

最近の研究により、8割方が解読できている、とは聞いていたが、いざマヤの遺跡で実物を見ていると、「これをどうやって読むのだ?」とクエスチョンマークが頭に浮かんでしまう。マヤ文字の解説本もいくつか出ているが、生半可な意気込みでは頭に入ってこない。

今日放送されたNHKプレミアム8の「古代マヤ文明 天才少年が解き明かした謎の文字」は、それを解説した好番組だった。マヤ文明の中でも文字に焦点を絞り、それが解明されるまでの研究者たちの奮闘を描いたものだ。文字構成や文法をダラダラと解説するのでなく、解明への歴史をたどることにより、マヤ文字とはどういうものかを理解させる構成は、見事だったと思う。タイトルの副題にある「天才少年」=デビッド・スチュアートは最後のほうに少し出てきただけだが、これは惹句だからしかたあるまい。

番組から簡単に解説すると、マヤ文字は表意文字と表音文字が複合していたもの、ということだ。一つ一つの文字は象形文字のようだが、必ずしも表意ではなく、表音に用いられた象形もある。表記法は柔軟で、複数の文字を任意に組み合わせて使用できる。たとえば日本語では、文字数を調整するときに漢字をわざとひらがなにしたり、ひらがなを漢字にしたりすることがあるが、同じように、複数の文字を合体させることで文字数の調整もしていたようだ。なんだか日本語に似ているな、と思う部分も多かった。

我々が書いている文字に比べると、ずいぶん書くのが面倒な文字だなあ、とは思う。ただ、これはたぶん、文字が一般に普及する前に途絶えてしまったからだろう。マヤ王朝時代では、文字を書けるのは特殊な階級の人間だけだったはずで、書くのが面倒でも問題はなかった。もし、マヤ文字が現在まで継続して使われていたら、もっと文字は簡単になり、記述法も洗練されてきたはずだ。標準表記法なども確立されただろう。そうなるまえに、独特の文字文明が消えてしまったことは、非常に惜しい。

一般向けのテレビ番組としては、難解なほうだったと思う。もともとアメリカで制作された60分番組に、スタジオ解説を加えた90分構成だったが、VTRでわかりにくい部分がスタジオでも平易に解説されたとは思えなかったのは残念である。デビッド・スチュアートの発見にまつわる「チキン(西)」の解説は、スタジオで復習されていたが、キャスターすらよくわからない顔をしていた。全体として、マヤ文明に多少の知識がないと、とくに番組後半はついていけなかったのではないだろうか。

マヤ文明について手軽に知りたいなら、番組に出ていた芝崎みゆき氏の著書はおもしろい。「古代マヤ・アステカ不可思議大全」「マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行」の2冊がある。前者がマヤ・アステカ文明解説で、後者が中米の旅行記である。どちらもとてもおもしろい。平易だし、手抜きのないイラストと文章も好感が持てる。

付け加えると、最後のテロップで、監修に中村誠一氏の名前があった。やはり彼が現在の日本でのマヤ研究の第一人者なのだろうか。中村氏の書いたマヤ関係の一般書は2冊ある。とくに、「マヤ文明はなぜ滅んだか?」は、マヤ文明の王朝興亡史を描いた好著であった。1998年の出版だが、当時これを読んで、やっとマヤ文明の全体像がつかめた気がする。2007年に出版された「マヤ文明を掘る―コパン王国の物語」は、そのうちのコパンに関して絞って書かれた本で、マヤの一王朝を解説した書籍はこれだけだろう。マヤ文明の本というと、観光的な本が多いなか、王朝史を描いている中村氏の本は、もっと読みたいと思う。

以下、番組紹介

世界史発掘!時空タイムス編集部 ▽古代マヤ文明
「古代マヤ文明 天才少年が解き明かした謎の文字」【ゲスト】麗澤大学教授…ケリー・ハル,作家…芝崎みゆき,【司会】平泉成,小郷知子

2012年は、マヤ文明の暦で人類滅亡の年にあたり、映画「2012」の制作で注目が集まっている。「新世界で最も高度に発達した文字文明」であり、これまでいかなる専門家も読み解けなかった暗号が、この番組で初めて明かされる! 解読に成功したのは、高校生の少年。「歴史は繰り返す」とするマヤ文明は、時を越えて何を語るのか、新事実をもとに見ていく。

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