マレー鉄道・東海岸線 その2(2010年マレー半島鉄道旅行記8)

グマス-トゥンパ 527.7km



東海岸線は、海岸に沿うような名称だが、実際に海岸沿いを走る区間はない。マレー半島南部から内陸部を縦走して東海岸に抜ける路線配置である。したがって、「海岸線」よりは俗称の「ジャングル鉄道」ほうがふさわしい。

ガマスの分岐を出てから、山岳地帯に入ったり盆地を走ったりするが、車窓から見えるのはひたすら樹木ばかりである。樹木にも2種類あり、ゴム園やバナナ園のような農場もあるが、熱帯のジャングルのほうが圧倒的に多い。かくして、527キロの沿線で、乗客はひたすら濃緑の広葉樹を見続けることになる。


人跡はあちらこちらに見られるが、民家は少ない。あってもバラックのような建物も多く、西海岸に較べると明らかに貧しい。バラックが連なっているな、と思うとそこが村で、近くに駅が設けられたりしている。エクスプレス・シナラン・ティムールは、そういう駅は通過していく。停まるのは、1日2本程度の普通列車だけである。

内陸部区間の乗客層は、西海岸とだいぶ違う。中国系やインド系は見あたらず、ほとんどがマレー系で、女性はほとんどがスカーフをかぶっている。同じマレーシアでも、バタワースやジョホールバルあたりとは別の国のようである。

沿線の中心都市はクアラ・リピスで、イギリス植民地時代はパハン州の州都だった都市である。しかし、州都は沿岸のクアンタンに移ってしまい、いまの人口は8万人程度になってしまったという。それでも、植民地時代に引かれた鉄道では依然として重要なターミナルで、急行の2往復を除く全列車が、ここを起終点にしている。ここで乗務員が全員入れ替わった。


地図を見ると、ここクアラ・リプスより先が、東海岸線のハイライトである。有名なキャメロンハイランドの東、中央山脈の麓をかすめながら、クランタン州の高原地帯を抜けていく。


大きな地図で見る

クアラ・リプスを出ると、列車は登りが多くなる。スピードは遅く、窓の外の標識を見ていると、時速30キロ制限などもある。制限のない区間でも時速60キロくらいしか出ていない。エクスプレス・シナラン・ティムールの表定速度は50.1キロだが、高原地帯はさらに遅い。

初めてのトンネルもあった。ここまで乗った限りでは、マレー鉄道にトンネルはなかったと思う。古い鉄道路線では、トンネルを掘るよりも迂回する方を選ぶからであろう。しかし、それを迂回しきれなかった場所にトンネルをくりぬいたようだ。トンネルを抜けると、下り坂になった。分水嶺を越えたらしい。パハン州とクランタン州の州境と思われた。この辺りの車窓はとくに寂しい。廃屋、打ち捨てられた家畜小屋もある。

グアムサンから先は、原生林とカーブの連続であった。熱帯林のなか、峻険な地形に合わせて線路を右に左に引いた印象である。

広い鉄橋を渡る。南シナ海に注ぐクランタン川である。当地の鉄橋は茶色く塗られていて、それがジャングル感を増している。川もジャングルの泥を巻き込んで、真っ茶色である。


このあたりは、川と、ジャングルと、適度な湿地がたまにあり、熱帯雨林地域の旅としてはとてもおもしろい。ただ、列車の窓からだけでは、雄大なジャングルと川の流れを一望することは、なかなか難しい。列車の最後尾に展望車でもあればよいのにと思う。日本のトロッコ列車のようなものがあれば、観光客には評判になるであろう。
 
窓の外がほぼ暗くなり、18時45分クアラ・クライ着。人口11万人の都市である。しかし、大きな建物もなく、駅を出て3分もすればまた熱帯林である。地図を見ると、山岳地帯はこのあたりで終わり、クランタン川流域の平野部に入る。平野部に入っても、ジャングルであることにかわりはない。ただし、線形は直線になり、列車はスピードを上げた。

タイ国境に近いパシルマスで乗客の半分が降り、残りのほとんどが次のワカバルで降りた。ここはマレー半島東海岸最大の都市コタバルの最寄り駅である。

ワカバルで乗客はほとんど乗客がゼロになり、そこから15分ほど走り、列車は終点のトゥンパットに到着した。終着駅とはいえ、港に近いだけの小さな村である。周囲に住宅の灯りなんてれっぽっちもない。ただ蛍光灯が煌々としている片面のホームである。21時06分着。シンガポールを出て16時間36分が経っていた。これで、マレー鉄道の幹線区間は全線完乗である。

駅舎は平屋で、職員用のスペースは大きい。しかし、客の待合スペースはとても小さく、そこに数人の出迎え客が固まっていた。



駅舎を出て周囲を見るが、ほとんど漆黒の闇である。もちろんホテルなどない。ここからコタバルの街までどうやって出るか思案したが、出迎えに来ていた家族連れに頼み込んで、コタバルの市街地までクルマに乗せてもらった。

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