NHKプレミアム8 「世界で一番遠い島 英領トリスタン・ダ・クーニャ」

期待して放映をみたNHKプレミアム8「世界で一番遠い島 英領トリスタン・ダ・クーニャ」。ほとんど見たことのない孤島の映像は興味深かった。

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(写真はNHKホームページより)

なにより、日本人初上陸、というのがいい。そんな場所が世界にまだあったのか、というのは新鮮な驚きである。

交通不便な島だから、NHKが船をチャーターしていくのかと思ったら、ケープタウンからの貨客船への便乗である。しかも、季節が悪く片道に8日もかかっている。時速16キロ、つまり時速9ノットという遅さだから、蒸気船並みである。開陽丸だって時速10ノット出たというから、幕末と同じ速度での航海だ。船が小さい、向かい風が強い、波が荒くて速度が出せない、などの理由があるのだろうが、21世紀の船の速度とは思えない。

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上陸してからの取材はかなり難しかったようだ。一般に、NHKの海外取材は現地コーディネータを雇って下調べをし、ある程度の下準備をしてから行うから、現地で行き当たりばったりというのは少ない。しかし、さすがにこの地ではコーディネータはいないから、下準備にも限界がある。コーディネータ兼通訳はケープタウンから連れてきたようだが、ほとんど役に立ってない様子がうかがえる。つまり本当に行き当たりばったりだったようで、しかも相手は「島国」の閉鎖的な人々でなかなか取材に応じてくれない。それで、取材が行き詰まったようだ。島に一軒あるパブで交流をはかったりしたようだが、その映像はない。おそらく撮影を断られたのであろう。

番組を見ていて思い浮かび続けたのは、「島国根性」という言葉である。島国根性は日本だけではなく、外部から隔絶された空間ならどこでも同じような状態になるのだな、ということだ。よそ者に対して警戒する、うかつなことは言わない、良くも悪くも平等主義。テレビに映された島民たちに「日本人的な雰囲気」を感じたのは僕だけではないだろう。この島は、いまでもほとんど完全な孤立空間である。そこに残された文化的遺伝子は、「人間社会遺産」とでもいうべきものかもしれない。

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さて、番組を見るまで、トリスタン・ダ・クーニャは行ってみたい場所のひとつだった。しかし、番組を見てしまうと、少し興味が失せ、行ってみたところで大変だな、と思うようになった。「世界で一番遠い島に旅はできるか」に書いたように、いちおう公共航路が月1回程度はあるのだから、行って行けないことはない。しかし、島にたどり着いた後、じゃあ何をしようか、というところで行き詰まりそうである。フィールドトレッキングくらいしかすることがなさそうだが、番組を見る限り、村を出て山に登ることができるのかどうかもわからない。

じゃあ、実際旅をした人はいるのか、と英文のブログを探したが、この人くらいしか見つからない。この人は自分の船で行ったようだ。他にも、行ったようなことを書いている人もいるが、いずれも貨客船ではなくヨットかクルーズ船で訪れたようだ。つまり、根城を海上に持ったまま、ちょっと上陸しただけである。貨客船で訪れたバックパッカーの旅行記は見つからない。いないわけはないと思うが、数少ないのだろう。自由旅行者が出かけるには、欧米人でも敷居が高いのだろうと思う。

それと、貨客船の旅客定員はきわめて少なく、おそらくは10人程度であろうと思われる。公用の人間が優先されるため、旅行者は予約が取りにくいという事情もありそうだ。

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実際、番組においても、船に乗り合わせたスタッフ以外の客はわずか5人であった。そのうちの4人は学者と牧師といった「仕事」の人間で、純粋な自由旅行者はドイツ人一人だけである。一人旅であの島に向かうとは、さすがバックパッカーの質が高いドイツ人である。彼は滞在中、どこにいて何をしていたのだろう?

年に10便程度の船に、旅行者が一人だけとなれば、計算上、貨客船を利用した旅行者は年10人程度しかいない、ということになる。ならば現地には観光産業は存在しえないし、そういう土地で部外者がいろんな場所を見て回るのは、結構面倒ではないかと考えてしまう。ゲストハウスはあるようだから、行って町をぶらぶらするだけならいいのだろうが、それではつまらない。ではあの火山に登れるのか? 番組では、町の外の様子は映らなかったからわからない。

番組の出演は粟野史浩という文学座の俳優である。トリスタン・ダ・クーニャを題材にした舞台で役を演じたことがある、というつながりでの抜擢のようだが、残念ながらリポーターに向いていない。すたすたと歩いていく島民に後ろから「これから何するんですか~?」などと声をかけているようでは、取材者としては失格である。それ以外の取材でも、投げかける質問の質が悪い。大高洋夫だったら、もう少しいい出来の番組になったのではないか、と残念である。

ロンリープラネット 南極大陸(トリスタン・ダ・クーニャを紹介)


以下番組紹介

プレミアム8 世界一番紀行「世界で一番“遠い”島 トリスタン・ダ・クーニャ」

南大西洋に浮かぶ、英領トリスタン・ダ・クーニャ島は、人が定住する他の陸地から、世界一遠い有人島。俳優の粟野史浩さんが“絶海の孤島”の暮らしと驚きの歴史に迫る。
南大西洋の真っただ中に浮かぶ、英領トリスタン・ダ・クーニャ島。人が定住する他の陸地から、世界一遠く離れた有人島である。空港はなく、島へ行く定期便は、南アフリカのケープタウンから、1年に、たった10回運行される貨物船だけ。人はなぜ、こんな“絶海の孤島”に住んでいるのか? この島を題材にした芝居に出演したことがある俳優・粟野史浩さんが、“絶海の孤島”の暮らしと驚きの歴史に迫る。
https://cgi4.nhk.or.jp/topepg/xmldef/epg3.cgi?setup=/bs/premium8-wed/main

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