津軽五所川原-津軽中里 20.7km

日本最北の私鉄が津軽鉄道である。ストーブ列車で知られた路線だが、経営は非常に厳しいようだ。2006年の輸送密度は476(人/日キロ)。江差線を見た後では多く見えるが、いつ廃止になってもおかしくない数字である。
僕自身はストーブ列車には乗ったことがない。せっかく真冬に近くまで来たので、今回足を伸ばしてみる。
ただし、ストーブ列車に乗るのは、意外と難しい。冬期に限り1日3往復するだけだからだ。しかも、五所川原でのJR五能線列車との接続がよくない。深く考えずに列車だけを乗り継いで行こうとすると、青森市から1日がかりになってしまう。それを避けるには、五所川原までバスで行くしかない。
僕は江差線を乗り終えてから、津軽海峡線を越えて青森に着き、駅前のホテルに1泊した。そして翌朝青森駅前7時23分発のバスで五所川原へ向かう。高速バスかと思ったら、普通の路線バスで、国道をゆっくり走って8時45分五所川原駅前着。もしこの区間を鉄道で行こうとすると、青森発6時9分の列車に乗る必要があったから、バスはありがたい。
午前9時25分発のストーブ列車に乗る。津軽21系というディーゼルカーに客車をつないでいる。

機関車による牽引を期待していたので、少し残念。ただ、客車はオハ46という、1954年に製造された元国鉄車両で、これだけ古い旧型客車は全国的にもきわめて珍しく貴重だ。僕も国鉄の旧型客車に乗った記憶はほとんどないので、乗ってみると、懐かしさを超えて博物館的ですらある。

ストーブは石炭を使ったダルマ型で、これは小学校にあったものと似ている。車両にはアテンダントと営業員が同乗している。こういう形は最近のローカル線で増えた。団体やグループ旅行にはいいのかもしれない。

十数人の乗客を乗せて出発。ストーブ列車には300円の別料金がかかるので、地元客は乗らない。すべて観光客である。観光客を乗せて観光ガイドのようなアテンダントが車内を回り、営業員がグッズを販売する。これはもう完全なイベント列車であった。
車窓風景は一面の雪原で、好天にも恵まれて気持ちいい。真っ平らな津軽平野の雪景色は、とても純粋な土地に見えた。途中の金木は太宰治の生地で、半分くらいの観光客が降りる。降りなかったのは鉄道ファンばかりだった。
50分足らずで津軽中里着。

大型プレハブのような駅舎には、スーパーマーケットが併設されているが、いまは営業していないようだ。駅前通りの路面は凍結していて、人通りはほとんどなかった。

同じ列車で折り返す。今度はストーブ車両ではなく、牽引するディーゼルカーに乗ってみた。窓は大きくて車内は明るく、座席は座り心地がよく、空調も快適である。アテンダントもいないので、気にならない。地元の乗客もいて、風情がある。やっぱり僕は、観光列車より「普通のローカル線」のほうが好きである。
11時20分、津軽五所川原着。ホームには団体客が溢れていた。折り返し11時40分発のストーブ列車に乗るツアー客のようだ。ストーブ列車がやっぱり観光客向けであることを、改めて理解した。
中田有紀×津軽鉄道 私の津軽を巡る旅