長崎の軍艦島を見たあとに、鴻之舞を見物すると、どうしても両者を比較したくなる。

これらの二つには共通点がある。どちらも鉱山が閉じられ捨てられた都市であること、どちらも孤立した都市であること、である。
もちろん、鴻之舞は孤島ではないから軍艦島とは違う。しかし、鴻之舞は紋別市街地から二〇キロも離れた山間部に位置していた。孤立した都市空間であったことは軍艦島と同じである。そして、閉山後、町から人が完全に消えてしまった点も同じである。
異なる点は、軍艦島は住居などの構造物をそのまま放置したこと。いっぽう鴻之舞は鉱山会社が自らの手で構造物を撤去してしまったことである。もし、鴻之舞でも「撤去」でなく「放置」が選ばれていたら、今頃どんな都市遺跡が残されていたかと思う。ちょっと残念だ。
それでも、いくつかの重要な遺構は残されている。それを活用すれば、軍艦島には及ばないものの、ちょっとした観光資源になるのは間違いない。
それをガイド氏に尋ねると、ちょっと浮かない顔をした。曰く、鉱山会社や行政が積極的でないのだという。
鴻之舞鉱山近辺はほとんどが住友金属鉱山の土地で、それは今も変わらない。したがって、観光施設を作るにしても住友金属の協力が必要なのだが、住友としてはこの土地を観光的に売り出してもメリットが少なく、積極的になる理由に乏しい。
行政も積極的でない。僕が参加したツアーも、行政は観光協会で受付してくれるだけで、あとは有志、つまりボランティアが行っている。ツアーの拠点となる駅逓所跡も個人の所有である。
「予算がないっていうんだよ」とはガイド氏の言葉である。たしかに予算はないのだろう。しかし、流氷以外にたいした観光資源を持たない紋別にとって、これほどの観光資源候補を「予算がない」として放置する姿勢は、僕には理解できない。
軍艦島が世界遺産に立候補するほどの観光地になったのも、現地の有志の力が大きいが、それに行政が応えた結果である。鴻之舞も同じだろう。紋別市が観光資源として位置づけて、見学コースの整備に協力すれば立派な観光資源になる。

軍艦島に比べれば、残された遺構は少ない。それでも、道東の無人の山野に忽然と浮かぶこの大煙突の光景は、旅人の心を打つ。願わくば、この光景がこれからも維持されて、多くの人の目に触れんことを祈る。
これで、鴻之舞金山旅行記は終了です。よろしければ、拍手の一つでもしてくださいませ。