旅行雑誌の草分け的存在の「旅」(新潮社)が2012年3月号で休刊することが報じられた。「旅」は、もともとJTBが出版していたが、2004年に新潮社が引き継いで刊行を続けていた。それから8年での休刊となる。事実上の廃刊といっていいだろう。
バックパッカーに絶大な人気を誇った雑誌「旅行人」も、この12月1日発売号で休刊となった。「旅行人」は休刊の告知が2年ほど前になされていたし、「旅」に比べれば無名な雑誌なので、大きくは報じられていない。しかし、この二つの雑誌がほぼ同じ時期に幕を閉じるのを目の当たりにすると、「旅行雑誌」というメディアが過去のものとなった印象を強くする。
いっぽうで、9月には「旅と鉄道」が復刊した。この復刊を聞いたときは驚いた。復刊そのものにも驚いたが、版元が鉄道ジャーナルではなく朝日新聞出版であったこともニュースだった。実際は、編集プロダクションが制作を担い、朝日新聞出版は販売委託されただけのようだが、それでも朝日が販売を扱うというのは大きい。創刊号は川本三郎や池内紀などの有名作家を起用し、第2号は「青春18きっぷ」という王道企画を投入して、どちらもまずまずの売れ行きのようである。これは明るいニュースだろう。
ただ、毎号有名作家を多数起用するわけにもいかないし、青春18きっぷのような売れ線企画も続かない。勝負は創刊後しばらくたってからだろうが、冷静にみて、「旅と鉄道」も安泰とはいかない気がする。正直なところ、この内容では僕は買いたいという気にはならない。
旅行情報は、紙媒体からインターネットに移行した。一つ一つのウェブサイトの情報量はたいしたことないが、無数にあるサイトの情報量をあわせれば、雑誌ライターの取材量の及ぶところではない。さらにいえば、ウェブサイトは紙媒体よりも「書いてはいけないこと」が少ないので、おもしろい。となると、旅行情報の発信において、雑誌がウェブサイトに勝つのは相当に難しくなっている。
「旅行人」の最終号の執筆陣は豪華である。椎名誠、小林紀晴クラスの大物から、宮田珠己やさいとう夫婦のような旅行人おなじみの書き手まで、ずらりと揃えた。毎号これだけ揃えれば売れるだろうな、と思うが、毎号そんなことできない。
とても個人的な話をすると、僕は「旅」も「旅と鉄道」も「旅行人」も、全て愛読誌だった。「旅」と「旅と鉄道」は途中で買うのをやめたが、「旅行人」は今も毎号買っている。「旅行人」は、自分にとっての最後の「毎号買う雑誌」であった。
その「旅行人」が休刊になったことで、僕自身にとっても、「旅行雑誌」が過去のものになってしまった。とても寂しい。