始発駅の大阪で、「日本海」は入線から出発までは6分しかなく、あわただしい。

写真を撮っているうちに列車は動きだし、あわてて席に戻り外を眺める。見慣れた梅田の町のネオンがゆっくりと後ろに流れていく。もう寝台車から梅田の夜景を眺めることはできなくなるのだなあ、と思う。
軽やかに列車線を走り、京都に着く。駅のホームには通勤客が行列を作って列車を待っている。こういうときには、寝台車の優越感がある。僕は満員の通勤電車に乗らなくていい。そしてこれから1000キロの旅に出るのだ。

向かい側の寝台には鉄道ファンの若い男性が乗っている。大学生で、寝台列車に乗るのは初めてだそうである。雪国に向かうのも初めてで、そういう初々しさが、ちょっとうらやましい。
1人でビールを飲んでいるうちに、すぐに眠くなる。昨日は飛行機の遅延やら、落ち着かないセミスイートやらで、あまり眠れなかった。せっかくの寝台車なのだから、さっさと寝ようと思う。いつでも横になれるのが寝台利用者の特権なのだ。
少しうつらうつらしてみるが、列車が停まるたびに、ここはどこかと気になって落ち着かない。もそっと身を起こして、カーテンの隙間から車窓を眺める。敦賀を過ぎ長いトンネルを抜けると北陸だ。窓の外は一気に雪景色になる。粉雪が今も舞っている。
福井を過ぎ、加賀温泉で5分ほど停まる。

ホームに降り立つと、後ろから猛スピードで特急列車がやってきて、風のように隣のホームを通過していく。特急「サンダーバード39号」である。寝台列車はスピードが遅いから、後からきた新型の特急電車に抜かれるわけである。それは仕方のないことなのだけれど、この「サンダーバード39号」は、大阪を「日本海」の55分も後に出発した列車である。こちらが3時間かけて走ってきた道のりを、2時間で駆け抜けてきたわけだ。寝台列車はスピードを競う列車ではないけれど、いちおう「特急」であることに変わりはない。それなのに、これはちょっと鈍足すぎで、時代に取り残されているなあ。

加賀温泉のホームは底冷えがする。温かい車内に戻ると、急速に睡魔が覆いかかる。僕はカーテンをしっかり閉め、外の光がなるべくベッドに入らないようにしつつ、本格的に眠ってしまった。