
最後に、「カシオペア」に乗ってみた感想を少しだけ書いてみる。
1970年頃、寝台特急「あさかぜ」に24系客車が登場して、ブルートレインブームが起きた。そのころ、「未来のブルートレイン」などとして描かれた夢が、シャワーや娯楽室などのついた、「走るホテル」のような列車である。その夢を体現しようとした列車が、「カシオペア」ではないだろうか。
寝台は全部個室。部屋にはテレビもテーブルもトイレもある。シャワーは多くの個室では共同だけれど、設置はされている。食堂車では豪華なディナーが食べられて、展望室はくつろげるロビー空間になっている。まさに、1970年代の「夢のブルートレイン」が「カシオペア」である。

そういう意味で、「カシオペア」は寝台列車の完成型だと思う。それほど良くできた列車であり、「鉄道もここまで来たか」と思う。
しかし、このシリーズ冒頭に書いたように、残念ながら、「カシオペア」は、21世紀の寝台列車のスタンダードにはなれなかった。週3往復のままで増便もされず、使われているE26系客車も1編成だけで、今後製造される予定もない。2015年に予定されている北海道新幹線の青函トンネル乗り入れにともなって、廃止されるという観測すらある。
つまり、「カシオペア」自体はそれなりに成功したけれど、21世紀の寝台列車のスタンダードを作るには至らなかったわけである。その理由は何だろうか。
それは、「不自由さ」だと思う。
たとえばダイニングカー。あらかじめ決められた2種類のディナーから、どちらかを事前に選んで予約・支払をしておかなければ食べられない。シャワーも全員が利用できるわけではなく、浴びるためには乗車早々、スタッフからカードを買う必要があり、そのために行列したりもする。また、終点まで17時間もかかるので、途中駅で少しくらいは降りてみたいが、駅の停車時間は限られていて、ホームに降りることすら事実上できない。
要するに、乗客は、あらかじめ鉄道会社が決めた裁量の余地の狭いルールの中でしか、旅行を楽しむことができないのである。そのため、移動を楽しむために乗ったのだけれど、いつのまにか「移動させられている」という感覚に陥ってしまうことになる。
これは、必ずしも鉄道会社の責任ではない。列車という限られた空間と人員の制約なかで、ホテルに近いサービスを提供しようとすると、このような形にならざるをえないのだろう。
そして、今回は「カシオペアツイン」に乗ったけれど、率直な感想として、素晴らしいとは思わなかった。何というか、中途半端にがんばって、無理矢理「A寝台」に仕立てた、という感じがするのである。先日乗車した「サンライズ出雲」の個室のほうが、コストパフォーマンスと快適性のバランスが優れている。

「サンライズ出雲」には、「カシオペア」同様に「ツイン」がある。しかし、それは「B寝台」である。「カシオペア」のツインが「サンライズ出雲」と違って「A寝台」である理由を考えてみると、部屋に洗面台とトイレが付いているから、というくらいしか思いつかない。それは大事なことではあるけれど、それだけで「A寝台」としているのならば、無理矢理感は否めない。
やや極論になるけれど、「カシオペアツイン」に乗るくらいなら、「北斗星」の開放B寝台のほうが自由な雰囲気がして良い、と思う。まあ、これは個人の感覚によるとは思うし、女性の場合は、たいていは「個室のほうがいい」と考えるに違いないとは思うけれど。
いっぽう、「カシオペアスイート」の人気は猛烈だ。これは最後尾の展望室タイプと、車両中間部のメゾネットタイプがあるが、どちらも席は確保しにくい。だとすれば、こちらのタイプの室数を、もっと多めにしておけばよかったのではないか、とも思う。
そして、スイートの値段は、今より5割は高くして良いのではないか。展望室など、5倍でもいいくらいだ。
飛行機の場合、ファーストクラスやビジネスクラスの価格は、実質的にエコノミーの5~20倍もする。専有面積からすれば、せいぜい3~5倍程度なのに、値段には大きな差を付けている。そこで航空会社は利益を得る。エコノミーは、収益的にはおまけで、燃料費の足し程度だ。
同様な考えに立てば、「カシオペアスイート」の展望室は飛行機のファーストクラス並みの値付け、メゾネットタイプはビジネスクラス並みの値付けにしても良いはずだ。展望室の寝台料金は、今は1室5万円程度だが、これは20万円程度の値付けにすべきだったと思う。それでも乗る人はいるだろうし、仮に3日に1日しか埋まらなかったとしても、より高い収益を得ることができる。
メゾネットタイプの値段も1室7~8万円程度でよい。そして、「カシオペアツイン」の数は少なくして、「カシオペアスイート」のメゾネットタイプの車両を増やしておけば、もっと利益率の高い列車になったはずだ。要するに、飛行機のような、ビジネスクラスで儲けるモデルを訴求すべきだった、と思うのである。
とても不思議なことだけれど、日本の鉄道においては、A寝台の専有面積あたりの単価は、B寝台より安い。つまり、満席になった場合の車両当たりの収益では、B寝台のほうがA寝台より儲かるのである。これは、飛行機のビジネスモデルとは逆で、エコノミー客で利益を出そうとしているビジネスモデルである。大量輸送の都市間特急ならそれでいいかもしれないけれど、豪華列車には、そういうモデルは向かないんじゃないか、と思う。
ちょっと残念な印象もある「カシオペア」。次はぜひ、「カシオペア」自慢の「スイート」に乗って、別の感想を書いてみたいと思う。