須走ルート下山において、太陽館は行程の半分程度の場所に立地しています。ただ、立ち寄れる山小屋としてはここが最後です。太陽館から先、下山路は登山路から完全に分離して、砂走りという下山道に入ります。そこには山小屋はありません。砂走りが終わったところに小さな売店があるだけです。

太陽館からは、砂走りを1時間半ほど下れば須走口五合目ですが、念のため最後の飲料補給をしておきます。ポカリスエットが525円。山頂よりも高いのは意外でした。
太陽館12時25分発。いよいよ砂走りです。荒野の斜面を掘り返し、砂地を表面に出して通路にしているようです。掘り返された部分に沿って、目印の白いロープが張られています。

どう歩けばいいのか、最初はちょっとわかりませんが、いろいろ試していくとコツがわかってきます。かかとに重心を載せつつ、つま先を砂につっこむようにして下りていきます。そうすると、かかとは滑りますが、つま先がブレーキの役割を果たしてくれて、適度な距離で「滑って止まる」ことができます。その繰り返しで、おもしろいように快調に下りていくことができます。

とはいえ、結構疲れます。とくに膝上の部分の筋肉への負担がとても大きい歩行方法です。しかも、砂走りを下り始めると、途中で休憩できる適当な場所がありません。ひたすら、砂と岩の道を下り続けるしかないのです。時折出てくる案内板だけが心の支えです。

12時50分頃、左右に緑地が出てきました。荒野から草地に入ってきたのです。さらに下ると灌木が生え、やがて森になっていきます。森林限界から森林エリアというのは、標高の違いとしてはほんのわずかであることがわかります。

森林地帯に入ると、むっとした熱気が身体にまとわりつきます。富士山の冷風は失われ、平地の暑さを思い出します。空気の味も濃いような。もう高度障害は心配要らない標高です。霧がかかり、視界が悪くなります。

順調に来た砂走りですが、終点の砂払五合目を前にして、膝の上あたりの筋肉がおかしくなってきました。その部分に力を入れて滑ってきたのですが、普段使わない筋肉だからか、悲鳴を上げています。
最後は、足を引きづるようにして何とか下りていきます。
そんな自分を、軽やかにカップルが抜いていき、カーブの向こうに消えていきました。うう、どうすればあんなスピードで下りれるのでしょう? ……普段のトレーニングの違いですね。きっと。
もうこれ以上滑りたくない!と音を上げた頃に、ようやく砂払五合目到着。13時20分到着。標高2230メートル。太陽館からのコースタイムが55分、実績も55分。結構快調に飛ばしてきたつもりですが、やっとコースタイムと同じですか。どんだけ早い人が、コースタイムを決めているのだろう、とちょっと驚きます。

砂走りを終えると、下山を終えたような気になります。いや~、よくがんばったよ、お疲れ。

が、それは間違った思い込みです。バス停のある須走口五合目までは、あと40分。

「山と高原地図」のコースタイムでは35分になっています。どっちにしろ、距離は2キロもあり、標高も200メートル以上、下らなければならないのです。
200メートルも違うなら、砂払「五合」なんていう名称はつけないで…。
ただ、この砂払五合目の標高2230メートルは、吉田口五合目の標高2300メートルよりも低い位置にあります。絶対的な高さでいえば、もう十分に「五合目」なのです。
太股の筋肉がひくひくしていて、もう歩きたくないですが、ここに座っていては永遠に帰宅できません。しかも、雲がどんどん出てきています。また夕立がやってきそうな雲行きです。
重い腰を上げて、13時30分出発。
さらに砂地の道を下っていきます。

そして登山道と合流。これから登る登山者は少なく、途中一組とすれ違っただけでした。

沢沿いのトレッキングコースのような山道をゆっくりと下っていきます。なるべく大腿を上げずに、そろりそろりと歩きます。元気な下山者に、一人、二人と抜かれていきますが、気にしない。須走口は利用者が少ないので、抜かされても数が少なく、ストレスにもなりません。
途中から雨が降り出しました。予想していたことですが、予想より1時間ほど早いです。幸いなことに森の中なので、あまり気にしないで降りていきます。ここまで来て、レインウエアを出すのも面倒だし、身体についた砂を雨が少しでも流してくれたらと思いながら。
しばらく歩くと、神社が。

古御岳神社です。これが見えたら、ゴールはもうすぐ。

道は舗装路になり、ついに須走口五合目到着。14時11分。砂払五合目からの所要時間は41分で、ほぼコースターム通り。ゆっくり歩いてきたつもりですが、それほどでもなかったようです。


ようやく下山完了です。