北海道に入ると、「カシオペア」の停車駅は増える。下り「カシオペア」には17の途中停車駅があるが、そのうちの10は北海道である。北海道観光の利便性を考えたダイヤなのだろう。
ただ、よく観察していると、途中駅の乗降は少ない。森、八雲、長万部ではゼロ、洞爺で一組が降りたくらいで、伊達紋別もゼロであった。ほとんどの乗客が札幌まで乗り通す。「カシオペア」が「乗ることを楽しむ列車」である以上、これは当然なのかもしれない。
それにしても、上野を出てずいぶん経つのに、まだ札幌に着けないのか、と思う。出発して、もうそろそろ15時間にもなる。それだけの間、ほぼ休みなく走り通しているのに、まだ噴火湾である。日本はこんなに広かったのか。これは、飛行機旅行では味わえない感覚だけれど、飛行機に慣れた身としては、若干うんざりする。
中国横断鉄道や、アメリカ横断鉄道に乗ったときも、似たような感覚を抱いた。走っても走っても着かない。まだなのか。ただ、それは中国やアメリカだから、と思っていた。同じような思いを、まさか日本で感じるとは思わなかった。
だんだん、時間の感覚がなくなってくる。苫小牧に9時35分着。札幌まではあと1時間もかかるのだが、何となく「もうすぐだ」という気になる。
南千歳をすぎると、札幌の郊外に入り、北海道でも都会的な雰囲気になっていく。この札幌郊外の景色を見るたびに、僕は不思議な気分になる。ほんの200年ほど前、ここにはほとんど人など住んでいなくて、真冬は真っ白な雪と枯れ木しかなかったはずだ。そこに内地から開拓者がやってきて、木を切り倒し、家を建て、農場を拓き、鉄道を引き、これだけの町ができて、今は暖房の効いた部屋で快適に暮らしている。そのことに、ちょっと驚くのである。
しかし、それは内地からやってきた人間の勝手な感傷にすぎない。「カシオペア」はどんどん札幌に近づいていき、車窓はどんどん都会的になっていき、いよいよ終点の雰囲気を漂わす。10時32分、ちょうど1時間の遅れで、「カシオペア」号は終点札幌に到着した。