大井川鐵道は、日本で最初の保存鉄道とされる。SLの動態保存をはじめたのが1970年。国鉄からSL列車が姿を消しつつある時代で、SLブームが起きていた頃だ。当時、保存鉄道という概念は日本にはほとんどなかったから画期的だった。
当初の保存運転は末端に近い井川線で行われていたが、1976年には大井川本線でSLの定期列車を復活させた。国鉄からSL列車の営業運転が廃止された翌年のことである。

以後、大井川鐵道はSL列車の運転を継続している。それだけではなく、大手私鉄の中古車両を譲り受け、営業用車両として動態保存している。近鉄や京阪などの懐かしい特急車両が、いまも営業運転されているのである。
さらに井川線では、1990年にアプト式の区間が存在する。アプト式は信越本線で1963年に廃止されて以来、日本になかった設備だが、それを「復活」させて使用している。これも一種の保存鉄道といえる。
こうした保存活動は、大井川鐵道そのものを「保存」させることにも成功させている。大井川鐵道はローカル線であり、もしSLがなければ、とっくに廃線になっていたはずだ。その意味でも、1970年代にのこの鉄道会社の経営陣は英断を下したと思う。