五新線とは、奈良県五條市から十津川村を経て和歌山県新宮市に至る紀伊半島縦断鉄道計画です。鉄道路線の計画は戦前に立てられ、戦後になって本格的に着工されたのですが、未開業のまま断念されました。路盤は途中まで完成していたので、それを利用したバス専用道が作られ、鉄道の代わりにバスが走ることになりました。それが五新線専用道バスです。

専用道の区間は11.7km、運行開始は1965年です。当初は国鉄バスが運行していましたが、その後JR西日本が引き継ぎ、2002年からは奈良交通に移管されました。
その専用道バスも、2014年9月30日を以て、約半世紀にわたった歴史に幕を閉じます。併走する国道168号線が整備され、専用道を維持する意味が薄れたことや、専用道の維持にお金がかかること、などが廃止の理由のようです。
筆者は関西に住んでいたことがありますし、五条も何度か訪れたことがあります。にもかかわらず、五新線専用道バスには乗ったことがありませんでした。迂闊だったなあ、と悔やみつつ、東京からわざわざ五新線バスに乗りに来ました。

未成線を使った専用道バスには、不思議なロマンがあります。鉄道新線建設の夢と、それが挫折した現実。夢と現実の狭間を路線バスが埋めているわけです。
現在の五新線専用道バスは、平日5往復、土日は1往復のみです。土日の1往復は早朝6時50分発。これに乗るために、五條市内に宿泊しました。
朝、五条バスセンターに行ってみると、すでに行列ができています。廃止報道が出ると、どうしてもこうなります。普段はガラガラと聞いていたローカル路線バスですが、この日はちょうど座席が埋まるくらいの乗車率となりました。
しばらく五條市内を走り、いよいよ専用道へ。

鉄道ルートですから、緩やかな曲線の走りやすい道です。

しかし、道幅は狭いですし、舗装もよくありませんので、あまり速度は出せません。
交差点もあります。バスは徐行したり、一旦停止したりして交差点を通過します。鉄道なら踏切でノンストップなのに、と思わないでもありません。

途中のバス停では、すれ違えるように道幅が広くなっている場所があります。かつては、実際にバス同士のすれ違いも行われていたとのこと。

道路は丹生川に沿って走りますが、頻繁に橋梁でこれをまたぎます。また、トンネルも結構あります。戦後ローカル線らしく、トンネルや橋梁を惜しみなく採り入れて、高速運行できるような設計になっていました。ただ、コンクリート高架は少なく、盛土区間が多かったようにみられます。

終点、専用道城戸。

帰りはここから一般の路線バスに乗りたかったのですが、2時間待ちになるので、来たバスで帰りました。
専用道バスは、他に福島県の白棚線にもあります。これも最近は専用道区間が減っているそうなので、早めに乗っておきたいところです。